サティ
サティ
サティの生涯・経歴
サティ(1866-1925)は、19世紀後半から20世紀初頭に活躍したフランスの作曲家である。20世紀より前から活動していた作曲家である。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
1866年にフランスのノルマンディー地方の小さな街オンフルールに生まれた。
中川 右介 『クラシック音楽の歴史』 角川ソフィア文庫、2017年、225項。
父は海運業を営んでいたが廃業してパリへ移る。
サティが5歳の年に母が亡くなり、祖父母に育てられるが、その祖母が溺死するなど、幼少期には家族の不幸が続いた。
しかし、祖父が音楽的素養のある人だったので、教会のオルガン奏者からピアノを習うなど音楽教育を受けることができた。
さらに父がピアノ教師と再婚したので、この継母からも習い、13歳の年にパリ音楽院に入った。
しかし、才能はあるが、音楽院での成績は悪かった。
中川 右介 『クラシック音楽の歴史』 角川ソフィア文庫、2017年、225項
20歳になった頃には音楽院の授業に満足できず、ノートルダム寺院へ行ったり、図書館でゴシック建築の本とかグレゴリオ聖歌の楽譜を見たりしながら過ごすようになり、中世の神秘的な表現に惹かれていった。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
20歳を過ぎると、フランス文化の中心地として華開いた街であるモンマルトルで暮らし始める。この街には絵描きや踊り子など芸術家たちが住みついていた。
サティは芸術家が多く集まるモンマルトルの文学カフェ「黒猫」という酒場に出入りした。そして、この街のきらびやかなキャバレーや酒場が軒を連ねる歓楽街でピアノを弾いて生計を立てた。
なお、サティは「黒猫」でピカソやコクトーなどと知り合っている。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送。中川 右介 『クラシック音楽の歴史』 角川ソフィア文庫、2017年、225項。小学館 『日本大百科全書』。NHK教育 『名曲アルバム「ノクチュルヌ 第2番 第5番」サティー作曲』 2022年04月12日放送
結局、サティは西洋音楽の伝統に飽き足らず退学してしまう。
NHK教育 『名曲アルバム「ノクチュルヌ 第2番 第5番」サティー作曲』 2022年04月12日放送。中川 右介 『クラシック音楽の歴史』 角川ソフィア文庫、2017年、225項
また、サティは若い頃、神秘主義的な傾向も強く持ち、音楽院退学後は神秘主義の秘密結社「薔薇十字団」に入り、その専属作曲家となっている。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送。中川 右介 『クラシック音楽の歴史』 角川ソフィア文庫、2017年、226項
初期
20代の頃はシャンソン酒場「ラパン・アジル」で働き、歌い手の伴奏者としてピアノを弾いた。
そして、独創的な作風の曲を次々と生み出してゆく。
NHK教育 『名曲アルバム「ノクチュルヌ 第2番 第5番」サティー作曲』 2022年04月12日放送
中期
30代になると、ローマ時代の水道橋で有名な郊外の街アルクイユに移り住む。
晩年の代表作「ノクターン(ノクチュルヌ)」はこの街で作曲された。
パリ中心部の酒場まで毎日10キロほども歩いて通った。
NHK教育 『名曲アルバム「ノクチュルヌ 第2番 第5番」サティー作曲』 2022年04月12日放送
晩年
サティは晩年に幾つか新しい舞台作品を構想している。
コクトーの台本、ピカソの舞台装置と衣装により、1917年にディアギレフのロシア・バレエ団がサティの「パラード」という新作バレエを上演した。
さらに1924年にはピカソの舞台装置で「メルキュール」という作品が初演され、同じ年にフランシス・ピカビアの台本によるバレー「本日休演」も上演された。
この一連の舞台作品で、サティは当代一流のダダイストたちととても楽しそうに作業をしている。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
人物像
ベルベット・ジェントルマン
サティには山高帽をかぶってステッキを持ち、ビロードのジャケットを着ているイメージがある。
ビロードのジャケットは7着同じものを持っていて、それを取り替えながら7年間ずっと着ていたと伝えられている。ベルベット・ジェントルマンと呼ばれていて、それだけ実は貧困でもあった。そうした振る舞いから変人とか変わり者と言われてきた。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
他の音楽家との関係
ドビュッシー
サティの調性音楽の和声進行とは異なる静かでスタティックな音楽は当時の友人として親しかったドビュッシーに影響を与えた。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
サティの音楽史における位置づけ
音楽の根本的革新
サティは「機能和声」を無視し、「調性」を放棄し、廃れていた「教会旋法」を復活させた。
中川 右介 『クラシック音楽の歴史』 角川ソフィア文庫、2017年、226項
現代音楽の元祖
サティは異端児、変わり者、偏屈といったイメージがあるが、現在の視点で見るとサティの中にあった様々な要素が傾向の異なる20世紀の音楽の誕生に刺激を与えたことが分かる。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
ドビュッシーやラヴェルに大きな影響を与え、戦後の現代音楽に大きな影響を与え、ミニマル・ミュージックの先駆けとも言える。
つまり、サティは現代音楽の元祖であるが、同時にそれまでの伝統的な音楽からすると「異端」であった。
中川 右介 『クラシック音楽の歴史』 角川ソフィア文庫、2017年、225項
ミニマル・ミュージック
「家具の音楽」でのおびただしい反復という手法は、やがて1960年代半ばにアメリカのミニマル・ミュージックの作曲家たちにアイデアを与えることになる。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
音風景(サウンドスケープ)
「家具の音楽」という考え方は、1970年代にカナダのマリー・シェーファーが提唱した音風景(サウンドスケープ)の理念にも受け継がれている。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
実験音楽
サティのダダイスティックな感性は、ジョン・ケージらアメリカの実験音楽に影響を与えた。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
サティの意義・評価
異端児・変わり者・偏屈
当時は音楽界の「異端児」「変わり者」と呼ばれていた。
既存の枠に収まらない音楽を生み出したサティーは芸術家たちの憧れであり、過度の装飾や無駄のない純粋な音楽は後世の音楽家たちに影響を与え続けている。
NHK教育 『名曲アルバム「ノクチュルヌ 第2番 第5番」サティー作曲』 2022年04月12日放送
サティの作品
作風
初期
初期のピアノ曲はサティの音楽の中でも特に広く知られている。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
中期
サティの中期はおよそ1890年代の終わり頃から1915年ぐらいまでの時期とされている。この時期には「梨の形をした3つの小品」、「犬のためのブヨブヨした前奏曲」などといった奇妙なタイトルの曲がいくつも作られている。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
後期
家具の音楽
後期になるとサティのユニークな発想が炸裂する。その1つが「家具の音楽」である。
サティは生活の中に溶け込んだまるで家具のような存在の音楽を数多く作曲している。
「家具の音楽」とは、日々の生活に役に立つが、コンサートホールで音楽を聴くようにじっと耳を傾けるということのない音楽で、今の言葉で言えばバックグラウンドミュージックである。
NHK-FM(東京) 『小原孝のゆったりクラシック #1「サティ “ジムノペディ第1番”」』 2022/07/10放送。NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
彼自身、自分の音楽を酒場で客の邪魔にならない音楽という意味で「家具の音楽」と呼んだ。
酒場や喫茶店などでのBGMを目指したのだ。サティが「家具の音楽」を発想した頃には、基本的には音楽は生演奏であったので、かなり突飛な発想だったといえる。
そういう意味で、現代の音楽のあり方に先駆けている。
やがて音楽がコンサートホールを飛び出していくことを知っていたかのようである。
中川 右介 『クラシック音楽の歴史』 角川ソフィア文庫、2017年、226項。NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
「家具の音楽」はごく短いフレーズを必要な長さだけ反復するという特徴を持っている。ちょうど繰り返し模様の壁紙と同じで、壁の長さに合わせてどこからどこまで使っても良いように作られている。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
舞台作品
サティは詩のコクトーや画家のピカソらと出会ってから、晩年に幾つか新しい舞台作品を構想している。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
ピアノ曲
サティの音楽の中でも特に広く知られているのが初期のピアノ曲である。
中世の神秘的な表現に惹かれていたサティは、グレゴリオ聖歌風のたゆたうメロディをシンプルな和音で伴奏する小さなピアノ曲を書くようになった。
1885年の4つのオジーヴで始まり、3つのサラバンド、3つのジムノペディ、3つのグノシエンヌと続いていくが、いずれも伝統的な調性から離れたメロディーが綴られている。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
ジムノペディ 第1、2、3番(3つのジムノペディ)
1888年にピアノ曲として作られた。ゆったりした三拍子の楽曲。第1番が特に有名である。
タイトルは古代スパルタのジムノペディアという儀式から来ている。サティは、この儀式を描いたギリシャの壷からインスピレーションを受けて作曲したといわれている。
なお、ドビュッシーはこの3つのジムノペディに感銘を受け、第1番と第3番にオーケストレーションを施している。原曲の持つ独特な雰囲気をそのままに、ドビュッシーの繊細な管弦楽法を生かした作品となっている。
「なぜ第2番を編曲しなかったのか?」という問いに、ドビュッシーは「第2番まで編曲して聞かせるには少し退屈だから」と答えたといわれる。また編曲の際、ドビュッシーの意図により元の第1番は第3番として、第3番は第1番として番号をひっくり返している。
NHK-FM(東京) 『クラシックカフェ ラヴェルの組曲「クープランの墓」他』 2022/11/29放送。NHK-FM(東京) 『小原孝のゆったりクラシック #1「サティ “ジムノペディ第1番”」』 2022/07/10放送。ジムノペディ - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/ジムノペディ
グノシエンヌ 第1、2、3番(3つのグノシエンヌ)
1889年、24歳の時に発表された。第1番が有名。
NHK-FM(東京) 『小原孝のゆったりクラシック #1「サティ “ジムノペディ第1番”」』 2022/07/10放送
スポーツと気晴らし
この作品はパリの出版社からの依頼で作曲された。当時、雑誌のイラストレーターとして一世を風靡していたシャルル・マルタンの絵にサティーのピアノ曲がコラボレーションするという斬新な企画であった。
マルタンはゴルフやテニスといったスポーツ、あるいは釣りやピクニックなどの遊びをテーマに20枚の絵を描き、それぞれに合わせて作曲されたサティの楽譜が添えられて作品集「スポーツと気晴らし」が出来上がった。この作品集は1914年に出版され、マルタンの絵とともにサティのユニークな音楽も注目された。
NHK-FM(東京) 『クラシックカフェ ラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲』 2023/6/12放送
官僚的なソナチネ
1917年に作曲したピアノ独奏曲。
官僚的なソナチネ - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/官僚的なソナチネ
クレメンティの有名なハ長調のソナチネをパロディ化した作品。作品には詩が付けられていて、ある役人が朝役所に出勤して夕方役所を後にするまでの1日が物語のように綴られている。
NHK-FM(東京) 『クラシックカフェ サン・サーンスの組曲「動物の謝肉祭」ほか』 2023/11/28放送
ノクターン(ノクチュルヌ)
晩年の代表作。「ノクチュルヌ」は夜想曲の意味(英語では「ノクターン」)。
NHK教育 『名曲アルバム「ノクチュルヌ 第2番 第5番」サティー作曲』 2022年04月12日放送
ワルツ
サティはワルツもたくさん作曲している。
NHK-FM(東京) 『小原孝のゆったりクラシック #1「サティ “ジムノペディ第1番”」』 2022/07/10放送
管弦楽曲
風変わりな美女
この作品はエリーズと呼ばれていた女性舞踊家のために作曲された。1920年にシャンゼリゼ劇場で初演された。全4曲。
なお、主役を踊ったエリーズはその後しばらく「風変わりな美女」と呼ばれたというが、彼女はサティの音楽の良き理解者の1人であった。
NHK-FM(東京) 『クラシックカフェ ハイドンの交響曲第102番』 2023/7/20放送
後にピアノ連弾用に編曲した。
サティの楽曲一覧 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/サティの楽曲一覧
宗教曲
貧しい人々のためのミサ
若い頃、神秘主義的な傾向を強く持っていたサティは神秘主義の秘密結社「薔薇十字団」に入り、自分の狭い部屋で行われる教会の儀式のためにこの作品を作曲した。全7曲からなる作品。
不協和音の連続使用など、それまでの調性音楽とは異なる響きを作ったりしているが、こうした音の組み合わせはドビュッシーなどの作曲家にも現れる特徴となっている。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
舞台作品
パラード
コクトーの台本、ピカソの舞台装置と衣装により、1917年にディアギレフのロシア・バレエ団がサティの「パラード」という新作バレエを上演した。
一幕ものの現実主義的バレエと銘打たれた作品。
NHK-FM(東京) 『「現代音楽 100年のレガシー」(17) サティー - 現代の音楽』 2023/1/7放送
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