ドイツ―バッハ―作品―平均律クラヴィーア曲集 (BWV846-893)
バッハの平均律クラヴィーア曲集
バッハの平均律クラヴィーア曲集は鍵盤楽器のために書かれた。息子たちの教育にも用いたという。鍵盤楽器のために打ち立てた金字塔である。
全2巻48曲。バッハはおよそ20年の時を隔て第1巻と第2巻の2つを作った。
それぞれ12の長調と12の短調の、比較的自由な前奏曲と3声あるいは4声のフーガで構成され、24曲ずつが収められている。
第1巻 (BWV846-869) は1722年37歳の年に、第2巻 (BWV870-893) は晩年に差しかかった1742年頃に完成した。
全2巻からなるバッハの平均律クラヴィーア曲集は、チェンバロやピアノを弾く多くの人にとって特別な曲である。
NHK-FM(東京) 『クラシックカフェ ▽ショパンの「練習曲集作品10」他』 2022/07/28放送。平均律クラヴィーア曲集 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/平均律クラヴィーア曲集。NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(1)』 2022/9/21放送。NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(2)』 2022/9/23放送。NHK-FM(東京) 『ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番 - クラシックカフェ - NHK』 2023/4/11放送。NHK-FM(東京) 『ベストオブクラシック▽イタリアの公演から4 ヒューイットが奏でるバロック鍵盤音楽』 2022/9/29放送
今でこそ一般的な調律法になっている平均律を先取りし、その可能性の大きさを示したという点からもこの曲集は大変画期的なものであった。
24の調性すべてに前奏曲とフーガをそれぞれ作曲するという前人未到の企てで、これをバッハは第1巻と第2巻という2回にわたって完成させた。
ただし、タイトルにある「平均律」という言葉は「 Wohltemperierte Klavier」のドイツ語訳(英語訳では「Well-Tempered Clavier」)であるが、厳密には今、ピアノの調律に用いられる平均律とは少し意味合いが異なる。
一般的には、平均律とは1オクターブを12等分した音律をいう(12の半音でできているオクターブをすべて同じ幅で調律する)。しかし、このように調律すると完全にきれいな和音がどこにもない調律になる。
これに対して、バロック時代は、あまり黒鍵だらけの調は使わなかったので、より頻繁に使われる白鍵の多い調性が綺麗に響くように調律した。バッハはシャープがたくさんの調の曲も弾けるようにしようとしたので、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」とは、よく調律することで12の主音による24の調整すべてを弾けるようにした鍵盤楽器のための作品という意味になる。
NHK-FM(東京) 『クラシックカフェ ▽ショパンの「練習曲集作品10」他』 2022/07/28放送。NHK-FM(東京) 『クラシックカフェ ▽バッハの無伴奏バイオリン・ソナタ第3番 他』 2022/9/8放送。NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(1)』 2022/9/21放送
バッハの平均律クラヴィーア曲集はショパンの「前奏曲集 作品28」、ショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ 作品87」など後の音楽に大きな影響を与え、今でも大変重要な作品の1つとなっている。
NHK-FM(東京) 『クラシックカフェ ▽ショパンの「練習曲集作品10」他』 2022/07/28放送
なお、平均律クラヴィーア曲集には特段楽器の指定はない。
クラヴィーアというのは鍵盤楽器ということなので、クラヴィコード、チェンバロ、ピアノで弾くことも可能である。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(3)』 2022/9/23放送
平均律クラヴィーア曲集第1巻
バッハは次のような標題を添えている。「ほどよく快適に調整された音律によるクラヴィーアのための曲集。すべての全音と半音を用いたプレリュードとフーガは熱心に音楽を学ぶ若者たちの役に立つように。そして、すでにこの道に熟達した人たちの特別な楽しみとなるように。」
NHK-FM(東京) 『ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番 - クラシックカフェ - NHK』 2023/4/11放送
「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から「前奏曲とフーガ 第1番 ハ長調」BWV846
前奏曲はドの音を基準にするお馴染みのハ長調。穏やかな繰り返されるアルペジオの音型がもたらす和声の移ろいの美しさを感じさせてくれる。
そして、この穏やかな前奏曲に続くのは、アーチ状の滑らかな主題による4声のフーガ。しかし、平易な前奏曲とは違い、このフーガは演奏するのは技術的に決して易しくはない。特に中間部では主題を弾き終わる前に他の声部で主題が始まっていくストレッドと呼ばれる手法で書かれた部分があり、これは非常に難しい。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(1)』 2022/9/21放送
なお、「グノーのアヴェ・マリア」として有名な曲はバッハの平均率クラヴィーア曲集第1巻第1曲ハ長調の前奏曲を伴奏としてフランスの作曲家グノーが美しいメロディーをつけた曲である。歌曲、そして器楽曲としても愛されている。
NHK-FM(東京) 『ハイドンの交響曲第104番「ロンドン」 - クラシックの庭』 2024/9/24放送
「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から「前奏曲とフーガ 第2番 ハ短調」BWV847
ハ長調の次は同じドの音を基準にするハ短調である。ハ長調の作品とは対照的に激しい情熱を感じる作品。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(1)』 2022/9/21放送
「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から「前奏曲とフーガ 第3番 嬰ハ長調」BWV848
第3番は半音上がったドのシャープによる嬰ハ長調。すべての音にシャープを付けるので、シャープは7つになる。なお、3声部のフーガはシャープが多くて大変弾きづらい。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(1)』 2022/9/21放送
「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から「前奏曲とフーガ 第4番 嬰ハ短調」BWV849
第4番は半音上がったドのシャープによる嬰ハ短調。
前奏曲は、3番の軽快な嬰ハ長調から一転して、涙を連想させるような下降音程が繰り返される憂いを帯びた美しい作品である。
そして、続くフーガは同じ調性でも今度は決然とした表情を持った、平均律全体の中でも屈指の複雑さを持つ作品となっている。
ドシミレの4つの音だけ(十字架音程※)の主題が重ねられて5本の声部が作られていくが、途中から非常に躍動的に動く8分音符でできた2つ目の主題が登場して、最初の主題と重なっていく。これだけでも充分複雑なフーガであるが、さらに4分音符の3つ目のテーマが出てきて、3つの主題を同時に演奏する3重フーガが書かれていて、対位法の極致とも言える作品になっている。
※テーマがドシミレのように4つの音しかない音程を十字架音程と呼ぶ。端っこの音、そして真ん中の音を線で結ぶと、真ん中でクロスするので、このように呼ばれている。イエスの受難の象徴としてしばしば用いられる。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(1)』 2022/9/21放送
「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から「前奏曲とフーガ 第5番 ニ長調」BWV850
ニ長調はバロック音楽で最も愛された調性の1つである。
前奏曲では右手が同じ音程を絶え間なく16分音符で弾き続ける軽快な作品である。すると普通は細かい装飾音で使われるような音価である非常に速い音符32分音符のフーガが始まる。しかし、その後にゆったりとした付点のリズムが続くので、全体としてフランス風序曲のような堂々とした曲想になっている。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(1)』 2022/9/21放送
「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から「前奏曲とフーガ 第6番 ニ短調」BWV851
前奏曲はミニマルミュージックを予感するような絶え間ない三連符の分散和音が心地よい作品である。
フーガは対位法の技術が光る作品で、テーマを上下ひっくり返す反行形がたくさん出てくる。
バッハの頭の中ではフーガが本当に自由自在に作曲できる楽しい素材であったであろうことが想像できるフーガである。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(1)』 2022/9/21放送
「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から「前奏曲とフーガ 第7番 変ホ長調」BWV852
前奏曲は、この前奏曲だけで前奏曲とフーガと呼べるような作品になっている。
右手と左手で穏やかなパッセージを掛け合う即興的なやりとりから始まるが、その途中から非常に古風なフーガが始まる。そこに先ほどの即興的なやりとりの音型が重なってきて、実はこれも2つの主題を持つ2重フーガであったことが、曲の途中で明らかになる。
そのため、次のフーガの作品の方は、インヴェンションとシンフォニアの一曲のようにも聴こえてくる。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(1)』 2022/9/21放送
「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から「前奏曲とフーガ 第8番 変ホ短調」BWV853
第7番変ホ長調に比べて非常に集中力の高い作品である。
前奏曲はリュートが伴走する歌曲のような、あるいは協奏曲の感情楽章のような悲痛な調子の作品。
そして続くフーガは3声部しかないが、まさにフーガのお手本のような傑作である。
反行形や音の長さを倍にしたテーマが現れてそれが元のテーマと重なっていく等、譜面を見ていくと、バッハの技が随所に仕掛けられていることが分かる。
NHK-FM『古楽の楽しみ』番組案内役の鈴木優人は作曲の師匠に「このフーガをお手本にしなさい」と言われたという。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(1)』 2022/9/21放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第9番 ホ長調」BWV854
ホ長調の前奏曲は12/8拍子どちらかというと、ゆったりとしたテンポが感じられる作品で、この前奏曲とは対照的にフーガは非常に活発な3声のフーガである。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(2)』 2022/9/23放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第11番 ヘ長調」BWV856
ホ短調に続くのは、ヘ長調の前奏曲とフーガ。屈託のない朗らかな調子の作品で、これがまさにフラット1つのヘ長調という調性の性格を表わしているといえる。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(2)』 2022/9/23放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第12番 ヘ短調」BWV857
ヘ長調のフーガから打って変わって続くヘ短調の前奏曲は悲痛な面持ちの作品。そして、ヘ短調のフーガも前奏曲で作られた雰囲気を引き継ぐ。
NHK-FM『古楽の楽しみ』番組案内役の鈴木優人は、平均律クラヴィーア曲集の全曲の中で個人的に一番心打たれる作品であると述べている。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(2)』 2022/9/23放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第13番 嬰ヘ長調」BWV858
シャープが6つ付く、バロックの時代にはめったに用いられない調性である。
しかし、前奏曲は曲想としては分かりやすく穏やかな2声部の作品である。フーガも小さな軽快なトリルがあり、可愛らしい主題による3声の作品である。対旋律のリズミカルな音型も心地よく、嬰ヘ長調の前奏曲とフーガはさらっと聞けるような印象になっている。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(2)』 2022/9/23放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第15番 ト長調」BWV860
ト長調の前奏曲は、明るく、そして目まぐるしい3連符が駆け回る。軽快なト長調の前奏曲に続くフーガは、作曲の技術、演奏の効果、さらには、4小節というしっかりとした長さがある主題から、全曲の中で最も華やかなフーガの1つといってよい。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(2)』 2022/9/23放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第16番 ト短調」BWV861
ト短調の前奏曲は非常に特徴的な長いトリルが冒頭から現れる。3声部で書かれていて、協奏曲の感情楽章のような作品になっている。そして続く4声部のフーガは堅実で隙がなく、作曲のお手本ともいえる。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(2)』 2022/9/23放送
「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から 「前奏曲とフーガ 第17番 変イ長調」BWV862
フラットが4つつく変イ長調である。弾むようなリトルネッロの主題と16分音符による流れるようなソロの部分が交互に現われる協奏曲風の作品で、あたかもヴィヴァルディの協奏曲を編曲したかのような趣を見せる軽快な作品。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ ▽ヴィヴァルディからバッハへ(4)』 2022/08/25放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第18番 嬰ト短調」BWV863
変イ長調の次は変イ短調と思われるが、バッハは嬰ト短調、つまりフラットではなく、シャープで書く書き方にしている。前奏曲は3声で書かれている。そして、難しい調性である嬰ト短調のフーガはバッハの作曲技法の頂点を見せているといえる。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(2)』 2022/9/23放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第21番 変ロ長調」BWV866
変ロ長調の明るく可愛らしい前奏曲とフーガ。前奏曲は32分音符のパッセージで非常に明るく、さわやかに弾くことができ、フーガは3声で4小節の主題であるが、イ短調のフーガとは違って複雑な書法は抑えられてわかりやすい。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(3)』 2022/9/23放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第22番 変ロ短調」BWV867
明るく可愛らしい変ロ長調の作品の後には全く表情の異なる変ロ短調の前奏曲とフーガが控えている。
フラットが5つつく変ロ短調はバロック音楽ではまず用いられない調性の1つである。
前奏曲は重い足取りの作品で、フーガは古風な2分音符が多くリチェルカーレに近いが非常に不思議な雰囲気の作品になっている。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(3)』 2022/9/23放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第23番 ロ長調」BWV868
少し演奏は難しい調であるが、繊細な美しさを称えた作品。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(3)』 2022/9/23放送
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」から「前奏曲とフーガ 第24番 ロ短調」BWV869
平均律クラヴィーア曲集という壮大な企てを閉じるにふさわしい力作。
前奏曲は3声部のトリオ・ソナタの形式で書かれて、歩く速さでという意味のアンダンテという速度記号が書かれている。この歩く速さで演奏されるベースラインはまさにウォーキングベースと呼ばれる8分音符で歩いていくような音型。
4声のフーガはラルゴという速度記号が付いていて、平均律クラヴィーア曲集を締め括るに相応しいフーガといえる。
NHK-FM(東京) 『古楽の楽しみ 選▽バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」(3)』 2022/9/23放送
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